離職1人のコストの計算方法|計算式・50人企業の試算例・早期フォローが安い理由
「離職1人で年収の○倍の損失」という言い回しはよく見かけますが、根拠がはっきりしないまま経営会議に出すと、その場で崩れます。この記事では、離職1人のコストを4つの項目に分け、誰でも自社の数字に置き換えられる計算式として示します。仮定はすべて「仮定」と明記し、外部の数字は公的統計に限って引用します。
- 離職1人のコストとは
- ある社員が退職したことで会社に生じる、①後任の採用費、②席が空いている期間の損失、③後任が一人前になるまでの人件費と生産性の差、④引き継ぎ・選考にかかる社内工数、の合計。退職金や有給の買い取りなど退職そのものの費用ではなく、「その人がいなくなり、次の人が同じ水準で働けるまで」に会社が負担する費用を指す。
離職1人のコストは、どう計算すればよいか?
①採用費 + ②空席期間の損失 + ③立ち上がり期間の人件費差 + ④社内工数、の4項目に分けて足し合わせます。項目ごとに自社の実績か、明示した仮定を入れれば、誰が見ても検証できる数字になります。
離職1人のコスト = ①採用費 + ②空席期間の損失 + ③立ち上がり期間の人件費差 + ④引き継ぎ・選考の社内工数
① 採用費
求人媒体の掲載費、人材紹介会社への手数料、採用イベント費、リファラル報奨金など、後任1人を採用するために外へ払うお金です。人材紹介を使う場合、手数料は理論年収の30〜35%が一般的な料率です。自社の直近1年の採用費を採用人数で割れば、実績値が出ます。
② 空席期間の損失
退職から後任の着任までの期間、その席が生み出していたはずの価値が失われます。最も単純な見積もりは「空席の月数 × その人の月額人件費」です。売上に直結する職種なら、担当していた売上の減少分で置き換えたほうが実態に近くなります。また、その間の業務を周囲が引き受けることで残業が増え、他のメンバーの負荷が上がるという間接的な費用もここに入ります。
③ 立ち上がり期間の人件費差
後任が着任しても、初日から前任と同じ生産性で働けるわけではありません。「一人前になるまでの月数 × 月額人件費 × 不足している生産性の割合」で見積もります。たとえば6か月で一人前になり、その間の生産性が平均で前任の半分なら、6か月分の人件費の50%が差額です。
④ 引き継ぎ・選考の社内工数
退職者本人の引き継ぎ資料作成、受け手側の引き継ぎ時間、面接に出る社員の時間、人事の調整時間です。時間を積み上げて、時給換算した人件費をかけます。見落とされがちですが、面接1回に3人が出て5回行えば、それだけで15人時になります。
50人の会社で、実際に計算するとどうなるか?
年収500万円の社員が1人退職した場合、下の仮定では約455万円です。すべての仮定を表に明記しているので、自社の数字に置き換えてください。
50人の会社で、年収500万円(月額人件費 約41.7万円)の中堅社員が退職したケースを、次の仮定で計算します。
| 項目 | 仮定 | 金額 |
|---|---|---|
| ① 採用費 | 人材紹介手数料 年収の35%(仮定) | 175万円 |
| ② 空席期間の損失 | 3か月 × 41.7万円(仮定) | 125万円 |
| ③ 立ち上がり期間の人件費差 | 6か月 × 41.7万円 × 50%(仮定) | 125万円 |
| ④ 社内工数 | 引き継ぎ・面接 計60時間 × 5,000円相当(仮定) | 30万円 |
| 合計 | 約455万円 |
年収の約0.9倍という結果です。人材紹介を使わず自社媒体やリファラルで採用できれば①は大きく下がり、逆に専門職で後任探しに半年かかれば②は倍になります。「年収の○倍」という定型の数字ではなく、この表の仮定を自社の実績で埋めることをお勧めします。
公的統計で確認できる数字
外部の数字は、次の2つが出典を確認できる範囲です。
- 就職みらい研究所「就職白書2020」によれば、2019年度の中途採用1人あたりの平均採用コストは103.3万円でした(出典 PDF)。①の目安として、人材紹介を使わない場合の水準に近い数字です。
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」によれば、2024年の離職率は14.2%、一般労働者では11.5%でした(出典 PDF)。50人の会社を一般労働者中心と仮定すると、年に5〜6人が離職する規模感になります。
この2つを組み合わせると、50人の会社で年5人が離職し、1人あたり上の試算の約455万円だとすれば、年間で約2,275万円になります。すべてが「防げた離職」ではありませんし、費用の一部は次の項目で述べる「よい離職」に伴うものですが、規模を掴むには十分な数字です。
計算に入れないほうがよいものは?
「防げない離職」と「防がないほうがよい離職」の費用は、離職予防の効果として数えません。また、退職金・有給の買い取りは離職予防で減るものではないので、この計算から外します。
| 分類 | 例 | 扱い |
|---|---|---|
| 防げない離職 | 配偶者の転勤、介護、留学、起業 | 費用は発生するが、予防の効果としては数えない |
| 防がないほうがよい離職 | 役割の合わない人が本人に合う環境へ移る | 本人と会社の双方にとって望ましいことがある。無理に引き止めない |
| 退職そのものの費用 | 退職金、有給の買い取り、社会保険の手続き | 予防で減るものではないので、この計算からは外す |
| 防げた可能性のある離職 | 負荷の偏り、役割の不一致、人間関係、評価への不満 | ここが早期フォローの対象。費用を数える対象はこれ |
離職予防の話をするとき、「離職率を下げること」自体を目的にすると、防がないほうがよい離職まで引き止める方向に力がかかります。目的は「防げた可能性のある離職を、本人が楽になる形で減らすこと」です。この線引きを経営会議で共有しておくと、数字の使い方が健全になります。
なぜ早期フォローは再採用より安いのか?
早期フォローで動かすのは業務の一部や役割で、発生する費用は数万円〜数十万円の桁です。一方、再採用は上の4項目がすべて発生し、数百万円の桁になります。100人が早期フォローの対象になっても、1人の再採用と同じ桁で済みます。
兆候に気づいたあとの打ち手は、たとえば次のようなものです。
- レビュー担当を1件外す、定例会議を1つ減らす(費用: 周囲の調整時間のみ)
- 設計や企画など、本人が望む仕事に一部を寄せる(費用: 配置の調整)
- リモート日を増やす、始業時刻を変える(費用: ほぼゼロ)
- 人事と別に話す場を作る、メンターをつける(費用: 数時間の人件費)
- 研修や外部の学びの機会を用意する(費用: 数万〜数十万円)
これらは、本人が困っていることを聞けていれば選べる手です。そして、聞けるかどうかは時期に依存します。退職の1〜2か月前、まだ本人が迷っている時期に声をかければ、業務の負荷を減らす、役割を変えるといった手が有効です。退職を伝えられた後では、聞けることは減り、動かせるものも少なくなります。
ChordOne Retention の費用は、50人の会社で月1万円(年12万円)です。上の試算で1人の離職が約455万円なら、年に1人でも「防げた可能性のある離職」を減らせれば、費用の30倍以上の差になります。ただし、私たちは「○人減らせる」という約束はしません。自社の過去の退職者について、退職前に兆候が出ていた割合を自社データで確認できる、というのが正確な言い方です。料金の詳細は 料金ページ に、精度の考え方は 退職予兆の検知とは にまとめています。
経営会議では、どう伝えればよいか?
「年収の○倍」ではなく、4項目の計算式と仮定を表で見せ、「仮定を自社の実績に置き換えると」と伝えます。数字の正しさより、検証できる形で出すことが信頼につながります。
- 直近1年の離職者数と、その職種・年収帯を出す。「防げた可能性のある離職」がそのうち何人かを、上司と人事で振り返る。
- 4項目の計算式に、自社の実績(採用費・空席月数)を入れる。実績がない項目は仮定と明記する。
- 早期フォローの打ち手と費用を並べる。桁の違いが伝われば十分。
- 目的を「離職率を下げる」ではなく「困っている人に早く気づいて支える」と置く。数字はその手段の妥当性を示すために使う。
兆候の見つけ方は 退職の兆候はデータにどう出るか、気づいたあとの会話は 兆候に気づいたあとの1on1 をご覧ください。
まとめ
- 離職1人のコストは、①採用費 + ②空席期間 + ③立ち上がり + ④社内工数。項目ごとに実績か明示した仮定を入れる
- 年収500万円の社員なら、この記事の仮定で約455万円。人材紹介の有無と空席期間で大きく変わる
- 公的統計では、中途採用1人あたり平均103.3万円(就職白書2020)、離職率14.2%・一般労働者11.5%(令和6年雇用動向調査)
- 防げない離職・防がないほうがよい離職・退職そのものの費用は、予防の効果として数えない
- 早期フォローの打ち手は数万〜数十万円の桁、再採用は数百万円の桁。差を生むのは「まだ迷っている時期に聞けるか」