退職の兆候に気づいたときの1on1の質問|質問の型・避ける言い方・記録の残し方
「最近、あの人の元気がない」「返事が遅くなった」。そう感じて 1on1 の予定を入れたものの、いざ向かい合うと何から聞けばよいか分からず、結局は業務の進捗確認で終わってしまう。上司からよく聞く悩みです。この記事では、退職の兆候を感じたときの 1on1 で使う「質問の型」を4つに整理し、口にしがちだけれど避けたい言い方の言い換え、そして本人が読んでも問題ない記録の残し方を、そのまま使える形でまとめます。姿勢の原則(詰問しない・気持ちを聞く・選択肢を渡す)は 兆候に気づいたあとの 1on1 に書いたので、ここでは「聞き方」そのものに絞ります。
- 質問の型とは
- 1on1 で使う問いかけを、答えの出方で分類したもの。この記事では「開く質問」「点数で聞く質問」「時間をずらす質問」「仮定の質問」の4つに分ける。型を知っていると、相手の反応に合わせて聞き方を切り替えられ、同じ質問を毎回繰り返す 1on1 から抜け出せる。
なぜ「質問の型」を知る必要があるのか?
兆候を感じている 1on1 では、上司の側に焦りがあり、答えを急ぐ質問になりやすいからです。型を知っていれば、相手が言葉を止めたときに、追い詰めずに別の角度から聞き直せます。
退職を考えはじめている人は、事実は淡々と話せますが、気持ちを聞かれると言葉が止まります。ここで上司が沈黙に耐えられず「つまり不満があるってこと?」と要約してしまうと、本人は「はい」も「いいえ」も言えず、会話は閉じます。逆に、同じ内容を別の型で聞き直せば、本人は自分のペースで言葉を選べます。
もうひとつ、兆候が出ている人にだけ急に深い質問をすると、「なぜ今日は違うのか」と気づかれます。型を普段の 1on1 でも使っていれば、その日の質問が特別なものに見えません。
4つの質問の型とは、どんなものか?
①開く質問(どう?)、②点数で聞く質問(10点満点で?)、③時間をずらす質問(半年前と比べて?)、④仮定の質問(もし〜だったら?)の4つです。この順に使うと、浅いところから深いところへ自然に進めます。
| 型 | 例 | 何が得られるか | 使いどころ |
|---|---|---|---|
| ① 開く質問 | 「最近の仕事、正直どう?」「今いちばん気になっていることは?」 | 本人が話したい順番と、言葉の選び方 | 冒頭。答えを決めずに聞く |
| ② 点数で聞く質問 | 「今の仕事量、10点満点でいうと?」「この仕事を続けたい気持ちは何点?」 | 気持ちの大きさと、その理由(「なぜ6点?」が聞ける) | 開く質問で言葉が止まったとき |
| ③ 時間をずらす質問 | 「半年前と比べて、変わったことはある?」「入社したころ期待していたことは、今どう?」 | 本人が自覚している変化と、そのきっかけ | 「何かが変わった」感触があるとき |
| ④ 仮定の質問 | 「もしひとつだけ変えられるなら、何を変える?」「もし今の仕事の半分がなくなったら、何をしたい?」 | 本人が本当に欲しいもの。会社側が動ける選択肢の候補 | 締めの前。次の一手につなげる |
「最近どう?」は雑な質問に見えますが、本人が何から話すかで、いま頭を占めていることが分かります。仕事量なら負荷、人の名前が出れば人間関係、将来の話が出ればキャリアです。言葉が止まったら点数で聞き、「6点」と出たら「あと4点、何があれば埋まる?」と続けます。点数そのものに意味はなく、理由を聞くための入り口です。兆候は「以前と比べて変わった」ことなので、本人にも「半年前と比べて」と同じ軸で聞くと、きっかけになった出来事(評価、異動、上司の交代、家庭の事情)が出てきます。最後に「もしひとつだけ変えられるなら」と仮定で聞くと、本人は現実の制約を外して答えられ、そこに会社側が動ける選択肢のヒントがあります。
避けたい言い方と、その言い換えは?
「辞めるの?」「最近やる気ないよね」「データでこう出てる」「みんな言ってるよ」の4つは、口にした瞬間に会話が閉じます。いずれも、気持ちではなく事実や判定を突きつける言い方です。
| 避けたい言い方 | なぜ避けるか | 言い換え |
|---|---|---|
| 「辞めるの?」「転職考えてる?」 | まだ迷っている人に、辞めるという選択肢を言葉にさせてしまう。「いいえ」と答えた瞬間、以後は本音を言えなくなる | 「今の仕事を続けたい気持ちは、10点満点で何点?」 |
| 「最近やる気ないよね」「元気ないね」 | 上司の判定を先に伝えている。本人は否定するか黙るかしかない | 「半年前と比べて、仕事の感じ方で変わったことはある?」 |
| 「Slack 静かだけど、何かあった?」「数字でこう出てる」 | 見られていたという印象だけが残る。以後の行動は本人が意識して作るものになる | 兆候は口に出さない。「最近どう?」で十分 |
| 「みんな心配してるよ」「○○さんも言ってた」 | 周囲に話が回っていると伝わり、居場所がなくなる | 「私が気になってるんだけど」と、上司自身の主語で言う |
| 「給料の話なら、上と相談できるけど」 | 不満の中身を聞く前に条件で蓋をする。次に不満が出たときに同じ手が使えない | 「いちばん重いのはどれ? それが半分になったら何が変わる?」 |
共通するのは、上司の側が「この人は辞めるかもしれない」という仮説を持って話していることです。仮説を確かめようとする質問は、すべて詰問になります。仮説は脇に置き、「いま何に困っているか」だけを聞くと決めてから 1on1 に入ります。
質問はどんな順番で使えばよいか?
開く → 点数 → 時間をずらす → 仮定 → 締め、の順です。30分なら、開く質問に10分、深める質問に15分、締めに5分が目安です。全部使う必要はなく、本人が言葉を止めた領域を深めます。
- 開く(最初の10分): 「最近どう?」「今いちばん気になっていることは?」。相槌だけで、要約も助言もしない。
- 点数で聞く: 言葉が止まったら「10点満点で言うと?」。理由を聞いて、本人が選んだ領域(負荷・役割・人間関係・キャリア)を確かめる。
- 時間をずらす: 「半年前と比べてどう?」「きっかけになったことはある?」。変化の起点を本人の言葉で聞く。
- 仮定で聞く: 「もしひとつだけ変えられるなら?」。出てきた答えを、会社側が動ける選択肢に翻訳する。
- 締め(最後の5分): 「今日話したことで、私に動いてほしいことはある?」「次に話すのは○日でいい?」。次の一手と見直す日を、本人と一緒に決める。
1回で全部聞こうとしないことが大事です。兆候が出ている時期は、1回の深い面談より、2週間おきに続く短い対話のほうが効きます。
聞いたことは、どう記録すればよいか?
「本人の言葉」「点数と理由」「決めた次の一手」「見直す日」の4点を、本人が読んでも問題ない書き方で残します。「離職リスク高」のような判定は書きません。
記録の目的は、フォロー日に「効いたか」を見返すことです。そのために必要なのは、上司の解釈ではなく本人の言葉です。書き方の例を示します。
記録の例(本人が読んでも問題ない書き方)
・本人の言葉: 「レビューが3件重なると土日に持ち越す」「設計にもう少し関わりたい」
・点数: 仕事量 4/10(理由: レビューの重なり)、続けたい気持ち 6/10
・次の一手: レビュー担当を1件外す(上司、来週から)。設計会議に参加してもらう(10月から)
・見直す日: 10月4日の 1on1 で、仕事量の点数を聞き直す
避けたい書き方は、「モチベーション低下」「離職懸念あり」「不満が多い」といったラベルです。本人が読めば傷つき、読まれなくても上司の見方を固定します。フォロー記録 は評価の材料ではなく、次の対話のための覚え書きです。
ChordOne Retention では、「気になる人」の画面から「1on1 を予定」を選び、対応内容と見直す日を同じ場所に記録できます。フォロー日にはリスクの推移を見て「改善・変化なし・悪化」が自動で付くので、「レビューを1件外したら、応答の遅れは戻ったか」を確かめられます。「AI 面談メモ」を使うと、記録から次に聞くとよいことの下書きも出せます。判断と会話は、人が行います。
兆候の系統ごとに、聞き方は変わるか?
変わります。ただし系統を口に出すのではなく、その系統が示す「困りごとの候補」を、気持ちの形で聞きます。兆候はきっかけであって、会話の材料ではありません。
ChordOne Retention は兆候を 系統 ごとの一文でまとめます。系統は、本人が何に困っているかの手がかりになりますが、そのまま口にすると「見られていた」と伝わります。系統ごとに、入口になる質問を挙げます。
| 出ている系統 | 困りごとの候補 | 入口になる質問(系統は口に出さない) |
|---|---|---|
| 会議・1on1 への参加が減る | 会議の意味を感じない、発言しても変わらない | 「今出ている会議で、いちばん意味を感じるのはどれ? 逆に減らしたいものは?」 |
| 応答の速さが落ちる | 負荷の集中、優先順位の迷い、他部署との摩擦 | 「いま抱えている仕事で、後回しにしているものはある? それはなぜ?」 |
| 残業が消える・退勤が前倒し | 家庭の事情、体調、意欲の変化、方針の変更 | 「働く時間の使い方で、最近意識して変えたことはある?」 |
| 周囲への関わりが減る | 人間関係、チーム再編、居場所の感覚 | 「チームの中で、話しやすい人・話しにくい人っている?」 |
| サーベイで勤続意向が下がる | 本人が「伝えたい」と思っている何か | 「サーベイに書いてくれたこと、もう少し聞かせてもらっていい?」(本人が回答を会社に見せる前提のときだけ) |
同じチームで複数人に同じ系統が出ているなら、個人の問題ではなく業務配分やマネジメントの構造を疑います。その場合、1on1 で気持ちを聞きつつも、対処はチーム単位で行います。詳しくは 離職原因の分析方法 をご覧ください。
まとめ
- 質問の型は「開く・点数・時間をずらす・仮定」の4つ。浅いところから深いところへ、この順に使う
- 「辞めるの?」「やる気ないよね」「数字でこう出てる」「みんな言ってる」は言わない。上司の仮説を確かめる質問は、すべて詰問になる
- 1回で全部聞かない。「次に話すのは○日」と決めて終わり、2週間おきの短い対話を続ける
- 記録は「本人の言葉・点数と理由・次の一手・見直す日」。本人が読んでも問題ない書き方で、判定のラベルは書かない
- 系統は手がかりであって材料ではない。困りごとの候補を、気持ちの形で聞く
ChordOne Retention は、気になる人の一覧から 1on1 を予定し、対応と見直す日を記録し、フォロー日に効き目を見返すまでを1つの画面でつなぎます。20名まで無料で、21名以上は月200円/人です。用語の整理は 用語集 にまとめています。